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日本銀行の金融政策とドル円 — 「利上げしたのに円安」が起きる理由

FRB がドル円の片輪なら、日本銀行はもう片方の輪です。長く「動かない中央銀行」だった日本銀行は、2024 年にマイナス金利を解除して正常化に踏み出し、日本の金利がドル円を動かす時代が戻ってきました。この章では、日本銀行の道具立て、正常化の経緯、そして「利上げしたのに円安が進む」という一見矛盾した現象の仕組みを扱います。

公開 · 執筆 boobook.ai 編集部

なぜ日本銀行は特別なのか — 円が世界の調達通貨になった経緯

日本銀行は 1999 年に世界で初めてゼロ金利政策を導入し、2016 年にはマイナス金利政策とイールドカーブ・コントロール(YCC、長期金利を 0% 前後に誘導する政策)を始めました。主要国の中央銀行が 2022 年に一斉に利上げしたあとも、日本銀行だけが超低金利を維持しました。

この結果、円は「借りても金利がほとんど付かない通貨」として、世界の投資家の調達通貨(ファンディング通貨)になりました。円を借りて高金利の資産に投資する円キャリートレード(第 7 章)が積み上がり、日本銀行の政策変更はその巻き戻しの引き金になり得る、という構造がここから生まれました。

日本銀行の道具立てと会合の仕組み

日本銀行が動かせるのは、政策金利(無担保コール翌日物金利の誘導目標)、国債買い入れの規模、そして先行きの政策運営に関する情報発信(フォワードガイダンス)です。YCC が終了した 2024 年以降は、政策金利と国債買い入れの減額ペースが主な道具になっています。

金融政策決定会合は年 8 回、2 日間の日程で開かれ、結果は 2 日目の昼前後に公表されます(時刻は決まっておらず、議論が長引くほど遅くなる)。総裁の記者会見は 15:30 からで、決定内容より会見での先行きの言い回しでドル円が大きく動くことがよくあります。1・4・7・10 月の会合では経済・物価の見通し(展望レポート)も公表されます。

正常化の経緯: 2022 年 12 月のサプライズから 2024 年の解除へ

2022 年 12 月 20 日、日本銀行は市場がまったく予想していなかったタイミングで YCC の長期金利上限を0.25% から 0.5% に引き上げました。ドル円はその日のうちに 137 円台から 131 円台まで急落し、「日本銀行は事前の示唆なしに動く」という警戒が市場に刻まれました。

その後、2023 年に上限の運用を段階的に柔軟化し、2024 年 3 月 19 日にマイナス金利と YCC を終了、7 月 31 日に政策金利を 0.25% へ引き上げると同時に国債買い入れの減額計画を示し、2025 年 1 月には 0.5% へ引き上げました。17 年ぶりの利上げから 1 年足らずで、日本の金利が「動く変数」に戻ったことになります。

「利上げしたのに円安」が起きる理由

2024 年 3 月のマイナス金利解除のあと、ドル円は下がるどころか上昇し、4 月末には 160 円台に達しました。利上げは円高要因のはずなのに、なぜでしょうか。

理由は 3 つあります。第一に、解除は事前に十分織り込まれており、決定時点で「材料出尽くし」になったこと。第二に、日本銀行が「当面は緩和的な金融環境が継続する」と説明し、追加利上げの見通しを示さなかったこと。第三に、0.1% の利上げをしても日米の金利差は依然 5% 近くあり、金利差の「水準」はほとんど変わらなかったことです。

つまりドル円に効くのは利上げの有無ではなく、「市場の想定より速く・高く利上げが進むか」という期待の変化です。逆に 2024 年 7 月の利上げは、減額計画とタカ派的な会見が重なって市場の想定を上回り、米雇用統計の悪化と合わさって 8 月の急落の引き金になりました(第 7 章)。同じ利上げでも、織り込みとの差で結果が正反対になった実例です。

見るべきデータと読み方

会合日程と決定内容、総裁・審議委員の講演は日本銀行のサイトで公開されています。市場が織り込む利上げ確率は、翌日物金利スワップ(OIS)から計算されて報道されます。

読み方のポイントは 3 つあります。第一に、決定内容より「織り込みとの差」と会見のトーンを見ること。第二に、日本銀行は FRB に比べて事前のコミュニケーションが薄く、サプライズが起きやすい歴史があること。会合当日はどちらの方向にも大きく動く前提でポジションを軽くするのが一般的な規律です。第三に、日本銀行の正常化は米国の政策サイクルと組み合わせて見ること。「日本は利上げ・米国は利下げ」が同時に固まる局面が、金利差縮小の速度が最も上がる局面です。

ライブデータ

ドル円と日本 10 年国債利回り(月次・3 年)
ドル円(週足) 157.17 日本 10 年債 % 2.94
140 150 160 170 0 1 2 3 23/10 24/05 24/12 25/07 26/02 26/09

日本銀行の正常化で日本の長期金利が「動く変数」に戻った過程。月次(OECD)のため会合当日の反応は見えない。

出所: FRED IRLTLT01JPM156N / TwelveData

1 日 1 回更新。価格は TwelveData の日次終値(JST)、各要因の値は出所の公表ラグを含みます。

見るべきデータ

政策金利・金融政策決定会合の日程と結果 日本銀行
翌日物金利スワップ(OIS)が織り込む利上げ確率 市場データ(各社報道)
日本 10 年国債利回り 財務省: 国債金利情報
日本の短期金利(月次) FRED: IRSTCI01JPM156N
展望レポート(経済・物価情勢の展望) 日本銀行(1・4・7・10 月)

よくある質問

Q. 日銀が利上げするとドル円は下がりますか?
利上げそのものではなく、市場の織り込みとの差で動きます。2024 年 3 月のマイナス金利解除は織り込み済みで追加利上げの見通しも示されなかったため、決定後にむしろ円安が進みました。逆に 7 月の利上げは想定を上回り、8 月の急落の引き金になりました。
Q. 日銀の金融政策決定会合はいつ結果が出ますか?
年 8 回、2 日間の会合の 2 日目の昼前後に公表されます。時刻は決まっておらず、議論が長引くほど遅くなります。総裁の記者会見は 15:30 からで、会見での先行きの言い回しがドル円を大きく動かすことがよくあります。
Q. イールドカーブ・コントロール(YCC)とは何でしたか?
2016 年から 2024 年 3 月まで日本銀行が行った、10 年国債利回りを 0% 前後の目標に誘導する政策です。上限の引き上げや撤廃はドル円の大きな材料になり、2022 年 12 月のサプライズ引き上げではドル円が 1 日で約 6 円下落しました。