LEARN

世界景気と中国は原油需要をどう決めるのか — 需要見通しが価格の方向を作る

世界は 1 日に約 1 億バレルの原油を消費しています。この巨大な需要は、輸送・製造・発電・化学原料という形で世界の経済活動そのものに結びついているため、原油需要の増減はほぼ世界景気の増減です。供給側のニュースが日々の値動きを作るのに対し、需要側は数か月〜数年の「価格の方向」を決めます。本章では、景気が需要に効く仕組み、需要の主役である中国と米国、そして需要見通しの改定がなぜ価格を動かすのかを解説します。

公開 · 執筆 boobook.ai 編集部

原油需要は「世界の GDP のコピー」である

原油の用途は、道路輸送(ガソリン・ディーゼル)が約半分、航空・海運、産業用燃料、石油化学の原料(プラスチック・合成繊維)、発電・暖房と続きます。いずれも経済活動の量に比例するため、世界の原油需要は長期的に世界 GDP と同じ方向に動いてきました。景気が良ければ物が運ばれ、人が移動し、工場が動いて需要が増える。不況になれば逆です。

ただし、需要は価格に対してはごく鈍感です。ガソリンが値上がりしても人々はすぐには車を手放せず、企業も生産を止められません。この「価格弾力性の低さ」のため、需要の変化は価格ではなく景気によって起こり、その変化が価格を大きく動かします。

需要の伸びを担うのは新興国です。先進国の需要は省エネと産業構造の変化でほぼ横ばいか緩やかな減少に入っており、2000 年代以降の世界需要の増分の大半は中国が、近年はインドと東南アジアが牽引しています。だから「中国の景気指標」が原油相場の重要な材料になるのです。

歴史的な実例: 2008 年と 2020 年、需要ショックの破壊力

供給要因は価格を「押し上げる」ことが多く、需要要因は価格を「叩き落とす」ことが多い、というのが原油の歴史です。2008 年、WTI は中国の高成長と投機資金の流入で 7 月に1 バレル 147 ドルの史上最高値をつけましたが、リーマン・ショックによる世界不況で同年 12 月には 30 ドル台へ、わずか 5 か月で 4 分の 1 以下になりました。

2020 年の新型コロナ禍では、都市封鎖で航空需要が消え、通勤も止まり、4 月の世界需要は前年比で日量 2,000 万バレル以上(約 2 割)減少したと推計されます。供給側が減産で追いつけない速度で需要が消えたため、在庫は貯蔵能力の限界に迫り、WTI 先物はマイナス価格を記録しました(総論参照)。

逆に 2021〜2022 年は、需要が回復する一方で供給の回復が遅れ、価格は急騰しました。2023 年以降は「中国の景気回復が期待ほど強くない」ことが、OPEC+ の減産にもかかわらず価格が上がりにくい主因として繰り返し語られました。需要見通しの方向が、供給側のニュースの効き方まで変えるのです。

見るべきデータ: 需要見通しの「改定」を追う

原油需要は直接には毎月計れないため、市場は 3 つの機関が毎月出す需要見通しと、その「前月からの改定幅」を注視します。数字そのものより、上方修正か下方修正かが価格に効きます。

  • IEA 石油市場レポート(OMR、毎月中旬)— 世界需要の伸び見通し。下方修正は弱材料。
  • OPEC 月報(MOMR)— OPEC 側の需要見通し。IEA より強気になりがちで、両者の差も話題になる。
  • EIA 短期エネルギー見通し(STEO、毎月上旬)— 米国側の需給・価格見通し。
  • 中国の原油輸入量(税関統計、毎月)・製油所稼働率・PMI — 最大輸入国の実需の温度計。
  • 米国のガソリン需要(EIA 週間統計の製品供給量)— 最大消費国の足元の需要。
  • 米国 ISM 製造業景況指数・世界 PMI — 景気サイクルの先行指標として需要見通しに影響。

読み方の注意: 長期の「需要ピーク論」と短期の景気を混同しない

電気自動車の普及・省エネ・再生可能エネルギーの拡大により、世界の原油需要は 2030 年前後にピークを迎えるという見方(需要ピーク論)があります。これは 10 年単位の構造論であり、今年の価格を説明する材料ではありません。長期見通しと、今後数か月の需要の強弱は別の問いとして扱う必要があります。

また、需要のデータは供給のデータより遅く、改定も大きいことに注意してください。「需要が弱い」という認識は在庫の積み上がり(第 6 章)として数週間遅れて確認されることが多く、市場はその前に景気指標や株式市場の動きから需要を先読みします。原油と株式市場が同時に下落する局面は、需要側が支配的になっているサインです。

ライブデータ

WTI と米 10 年債利回り(1 年)
WTI USD/bbl 96.16 米 10 年債 % 5.26
40 60 80 100 120 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 25/10 25/12 26/02 26/05 26/07 26/09

長期金利は景気期待の総合指標。2 本が同じ方向に動く期間は「需要(景気)の層」が支配的、金利が下がるのに原油が上がる期間は供給側の要因が支配的。

出所: FRED DGS10 / DCOILWTICO

1 日 1 回更新。価格は TwelveData の日次終値(JST)、各要因の値は出所の公表ラグを含みます。

見るべきデータ

世界原油需要見通し(月次改定) IEA OMR・OPEC MOMR・EIA STEO
中国の原油輸入量・製油所稼働率 中国税関総署・国家統計局
米国石油製品需要(製品供給量) EIA 週間石油統計
世界・米国・中国の製造業 PMI S&P Global・ISM・中国国家統計局

よくある質問

Q. 世界の原油需要はどのくらいですか?
日量およそ 1 億バレル(1 バレル = 約 159 リットル)で、そのうち米国が約 2 割、中国が約 15% を消費しています。需要の伸びの大半は中国・インド・東南アジアなど新興国が担い、先進国の需要は省エネによりほぼ横ばいか緩やかな減少傾向にあります。
Q. なぜ中国の経済指標で原油が動くのですか?
中国は世界最大の原油輸入国で、2000 年代以降の世界需要の増分の多くを中国 1 国が担ってきたからです。中国の製造業 PMI・原油輸入量・製油所稼働率が弱ければ「需要の伸びが足りない」と解釈され、OPEC+ が減産しても価格が上がりにくくなります。
Q. 景気後退が来ると原油はどのくらい下がりますか?
過去の例では、2008 年のリーマン・ショックで WTI は 5 か月で 147 ドルから 30 ドル台へ、2020 年のコロナ禍では一時マイナス価格まで下落しました。原油の需要と供給はどちらも価格に鈍感なため、需要が数 % 減るだけで価格は数十 % 動きます。下落幅は、そのとき在庫がどれだけ余裕を持っているかと、OPEC+ がどれだけ速く減産で対応するかに左右されます。

関連記事