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EIA・API の在庫統計はなぜ原油を動かすのか — クッシング在庫と戦略石油備蓄(SPR)

供給と需要の差は、必ず在庫の増減として現れます。だから在庫は、原油市場で最も正直な需給の指標です。毎週水曜日(日本時間の夜)に発表される米エネルギー情報局(EIA)の週間統計は、原油市場で最も値動きを生む定例イベントであり、原油トレーダーの 1 週間はこの発表を中心に組まれています。本章では、在庫統計の中身、「予想との差」で動く仕組み、WTI にとって特別な意味を持つクッシング在庫、そして政府が持つ戦略石油備蓄(SPR)の役割を解説します。

公開 · 執筆 boobook.ai 編集部

在庫は需給の「答え合わせ」— EIA と API の週間統計

米エネルギー情報局(EIA)は毎週水曜日の午前 10 時 30 分(米東部時間)に「週間石油状況報告(Weekly Petroleum Status Report)」を公表します。内容は前週の米国の原油在庫(SPR を除く商業在庫)、ガソリン在庫、ディスティレート在庫、クッシングの在庫、製油所稼働率、原油生産量、輸入・輸出量などです。前日の火曜日夕方には業界団体の米国石油協会(API)が独自集計の速報を出し、これが水曜の EIA の「前哨戦」になります。

在庫の増加(ビルド)は「供給が需要を上回った」ことを、減少(ドロー)は「需要が供給を上回った」ことを意味します。ただし価格を動かすのは在庫の増減そのものではなく、「事前予想との差」です。たとえば市場が 200 万バレルの減少を予想していたのに 100 万バレルの減少だった場合、在庫は減っているのに「予想より弱い」として売られることがあります。

原油在庫だけでなく製品在庫(第 5 章)を合わせた「総石油在庫」で見ることも重要です。原油在庫が増えても製品在庫が大きく減っていれば、製油所が原油を製品に変えただけで需給全体は締まっている、という読み方になります。統計の見出し数字だけで判断すると、この構造を見誤ります。

クッシングと SPR — 2 つの特別な在庫

オクラホマ州クッシングは WTI 先物の受渡地で、巨大なタンク群とパイプラインの結節点です。WTI の価格は「クッシングで受け渡される原油の価格」なので、クッシングの在庫は WTI に直接効きます。在庫が貯蔵能力の上限に近づけば、置き場を失った原油が投げ売られ、2020 年 4 月のマイナス価格のような極端な下落が起こります。逆に在庫がタンクの底(運用上の最低水準)に近づけば、期近の WTI が急騰し、先物カーブが急なバックワーデーション(第 7 章)になります。

戦略石油備蓄(SPR)は米国政府が非常時のために持つ備蓄で、最大約 7 億バレルの容量があります。2022 年、バイデン政権はロシアのウクライナ侵攻後の価格高騰を抑えるため史上最大の約 1.8 億バレルを放出し、SPR は 1980 年代以来の低水準まで減りました。放出は供給を増やして価格を抑え、その後の買い戻し(補充)は需要を作って価格を支えます。政府が「この価格帯なら買い戻す」と表明すれば、それは市場にとって下値の目安になります。

見るべきデータ: 5 年平均との比較で「水準」を読む

在庫の絶対量には強い季節性があるため(春に増え、夏に減る)、市場は「過去 5 年の同時期平均との差」で在庫の水準を評価します。5 年平均を大きく下回っていれば需給は締まっており、供給ショックへの耐性が弱い。大きく上回っていれば緩んでおり、OPEC+ の減産が必要な状態です。

  • EIA 週間統計(毎週水曜 10:30 ET)— 商業原油在庫の週間変化と事前予想(ロイター・ブルームバーグ調査)。
  • API 週間統計(毎週火曜 16:30 ET)— EIA の前哨戦。EIA と方向が食い違うこともある。
  • クッシング在庫(EIA)— WTI 固有の要因。運用上の下限(約 2,000 万バレル)と上限への接近に注目。
  • 商業原油在庫の 5 年平均との差 — 需給の「水準」を測る基準。
  • SPR 残高と放出・買い戻しスケジュール — エネルギー省の発表。
  • OECD 商業在庫・「フォワードカバー日数」(IEA OMR)— 世界ベースの在庫の余裕度。

読み方の注意: 単週のノイズと祝日シフト

週間在庫は輸入タンカーの到着タイミングや天候でぶれるため、1 週の数字は大きなノイズを含みます。「予想外の大幅ビルド」の翌週に「予想外の大幅ドロー」が来ることはよくあり、4 週移動平均や累積で方向を確認するのが基本です。発表直後の急変動は数十分で往復することも多く、初心者が最も損失を出しやすい時間帯でもあります。

米国の祝日がある週は発表が 1 日後ろにずれます(API が水曜、EIA が木曜)。また EIA の統計は「調整項目(adjustment)」と呼ばれる不明差分を含み、これが大きい週は数字の信頼性が議論になります。在庫統計は原油市場の最重要データですが、「1 回の数字で結論を出さない」という規律が何より重要です。

見るべきデータ

商業原油在庫・クッシング在庫・製品在庫(週次) EIA 週間石油状況報告(毎週水曜)
API 週間在庫速報 米国石油協会(毎週火曜)
戦略石油備蓄(SPR)残高 EIA / 米エネルギー省
OECD 商業在庫・フォワードカバー日数 IEA 石油市場レポート

よくある質問

Q. EIA の原油在庫統計はいつ発表されますか?
毎週水曜日の午前 10 時 30 分(米東部時間)で、日本時間では夏時間の水曜 23 時 30 分、冬時間の木曜 0 時 30 分です。前日の火曜日夕方(16 時 30 分 ET)には業界団体 API の速報が出ます。米国の祝日がある週は、どちらも 1 日後ろにずれます。
Q. 原油在庫が減ったのに価格が下がるのはなぜですか?
市場は在庫の増減そのものではなく「事前予想との差」で動くからです。減少幅が予想より小さければ「予想より需給が緩い」として売られます。また、原油在庫が減っていてもガソリンなど製品の在庫が大きく増えていれば、需要の弱さと解釈されることもあります。
Q. クッシングの在庫はなぜ重要なのですか?
オクラホマ州クッシングは WTI 先物の受渡地で、WTI の価格は「クッシングで受け渡される原油の価格」だからです。在庫が貯蔵能力の上限に近づけば期近の WTI が急落し(2020 年 4 月のマイナス価格)、運用上の下限に近づけば急騰します。クッシング在庫は WTI とブレントの価格差にも直接影響します。

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