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実質金利と金価格 — なぜ金は「利息を生まない」ことが最大の弱点であり強みなのか

金を持っている間、あなたは米国債の利息を受け取り損ねています。この「取り損ねる利息」をインフレ調整後で測ったものが実質金利で、長期的に金価格を最もよく説明する単一の変数です。実質金利が下がれば金を持つコストが下がって金は上がり、実質金利が上がれば金は下がる。この章では、その仕組みと例外を扱います。

公開 · 執筆 boobook.ai 編集部

名目金利 = 実質金利 + 期待インフレ率

米 10 年債の利回り(名目金利)は、2 つの部分に分解できます。投資家が将来のインフレとして織り込んでいる分(期待インフレ率)と、それを差し引いた後に実際に手元に残る分(実質金利)です。

米国にはインフレ連動国債(TIPS)があり、その利回りがそのまま市場の実質金利になります。名目 10 年債利回りから TIPS 利回りを引いた差が「ブレークイーブン・インフレ率(BEI)」で、これが市場の期待インフレ率です。

金に効くのは名目金利ではなく実質金利です。名目金利が 5% でも期待インフレが 5% なら、国債を持っても購買力は増えません。その状況では金を持つ機会費用はゼロに近く、金は買われやすくなります。

なぜ逆相関になるのか

金は利息も配当も生みません。金を保有する投資家は、同じ資金で安全資産(TIPS)を持てば得られたはずの実質リターンを放棄しています。この放棄するリターンが大きいほど金は相対的に不利になり、小さいほど(とくにマイナスなら)金は相対的に有利になります。

2008 年の金融危機後から 2021 年まで、金と米 10 年実質金利の相関係数はおおむねマイナス 0.8 前後で、金価格の変動の大部分を実質金利だけで説明できる時期が長く続きました。2020 年夏に金が当時の史上最高値(2,000 ドル超)を付けたのは、実質金利がマイナス 1% を下回った時期とぴったり重なります。

歴史的な実例: 2013 年のテーパー・タントラム

2013 年 5 月、当時の FRB 議長バーナンキが量的緩和の縮小(テーパリング)を示唆すると、米実質金利はマイナス圏から数か月でプラス圏へ急上昇しました。金は 2013 年に年間で約 28% 下落し、1980 年以来最大の年間下落率を記録しました。

注目すべきは、この年のインフレ率は低く安定しており、ドルも暴騰していなかったことです。動いたのはほぼ実質金利だけでした。「金は実質金利で動く」という命題の最も純粋な実例です。

2022 年以降、逆相関が崩れた理由

2022 年から 2023 年にかけて、FRB の急速な利上げで米 10 年実質金利はマイナス 1% 付近からプラス 2% 超まで上昇しました。2013 年の経験則に従えば、金は 3 割以上下落してもおかしくない動きです。しかし金は 2022 年をほぼ横ばいで終え、2023 年には上昇、2024 年には史上最高値を更新しました。

原因は、実質金利に反応しない巨大な買い手、つまり中央銀行の登場です(第 5 章)。中央銀行は利回りの比較で金を買うのではなく、準備資産の多様化や制裁リスクへの備えとして買います。この買いが年 1,000 トン規模で続いたため、欧米投資家の売り(ETF からの資金流出)を吸収して余りました。

重要なのは、実質金利の効果が消えたわけではないという点です。中央銀行の買いという「底上げ」の上で、実質金利は依然として日々・週々の変動を説明しています。水準(金が安いか高いか)の説明力は落ちましたが、変化(金が上がるか下がるか)の説明力は残っています。

見るべきデータと読み方

実質金利は米セントルイス連銀の FRED で無料公開されています。日次で更新され、最新値は前営業日のものです。

読み方のポイントは 3 つあります。第一に、水準より変化の方向を見ること。実質金利が 2% でも低下トレンドにあれば金には追い風です。第二に、実質金利の変化を「名目金利の変化」と「期待インフレの変化」に分解すること。名目金利が下がって実質金利が下がるのか、期待インフレが上がって実質金利が下がるのかで、金以外の資産への含意が変わります。第三に、実質金利が動いているのに金が反応しない局面を見つけること。それは他の層(中央銀行・地政学)が支配的になっているサインです。

ライブデータ

金価格と米 10 年実質金利(1 年)
金 USD/oz 4,207 実質金利 %(軸反転) 2.93
3,500 4,000 4,500 5,000 5,500 1.5 2.0 2.5 3.0 26/01 26/03 26/04 26/06 26/08 26/10

右軸は上下反転。2 本が重なって動くほど「金は実質金利で動いている」局面、乖離が開くほど他の層(中銀・地政学)が支配的。

出所: FRED DFII10 / TwelveData

1 日 1 回更新。価格は TwelveData の日次終値(JST)、各要因の値は出所の公表ラグを含みます。

見るべきデータ

米 10 年 TIPS 利回り(実質金利) FRED: DFII10
米 10 年ブレークイーブン・インフレ率 FRED: T10YIE
米 5 年ブレークイーブン・インフレ率 FRED: T5YIE
米 10 年債利回り(名目) FRED: DGS10

よくある質問

Q. 実質金利とは何ですか?
名目金利から期待インフレ率を引いたもので、インフレ調整後に投資家の手元に残る利回りです。米国ではインフレ連動国債(TIPS)の利回りがそのまま市場の実質金利を示します。
Q. 実質金利が上がると金はなぜ下がるのですか?
金は利息を生まないため、金を持つ代わりに安全資産を持てば得られた実質リターン(機会費用)が大きくなるほど相対的に不利になるからです。2013 年には実質金利の急上昇で金が年間約 28% 下落しました。
Q. 2022 年以降、実質金利が上がっても金が下がらなかったのはなぜですか?
中央銀行の金買いが年 1,000 トン規模で続き、実質金利に反応しない買いが投資家の売りを吸収したためです。実質金利の効果が消えたのではなく、別の要因に上書きされた状態です。