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インフレと金価格 — 「金はインフレヘッジ」の本当の意味

1970 年代、金は 35 ドルから 850 ドルまで上がりました。2021〜22 年、米国のインフレ率は 40 年ぶりの 9% に達しましたが、金はほぼ横ばいでした。どちらも「高インフレ」です。違いは、中央銀行がインフレに対してどう動いたかにあります。金はインフレそのものではなく、「インフレに金利が追いついているか」で動きます。

公開 · 執筆 boobook.ai 編集部

2 つの高インフレ期で金の動きが正反対だった理由

1970 年代、FRB はインフレに対して金利の引き上げが遅れ、インフレ率が政策金利を上回る「実質金利がマイナス」の状態が長く続きました。現金や国債を持つだけで購買力が減っていくため、金への逃避が起こり、1980 年 1 月に 850 ドルの高値を付けました。その後、ボルカー議長が政策金利を 20% 近くまで引き上げて実質金利を大幅なプラスにすると、金は 20 年に及ぶ下落相場に入りました。

2021〜22 年も CPI は 9% を超えましたが、FRB は 2022 年に急速な利上げに転じ、市場はインフレが抑え込まれると織り込みました。期待インフレ率(BEI)は 3% 前後で頭打ちとなり、名目金利の上昇が期待インフレの上昇を上回ったため実質金利は急上昇。金は高インフレの最中に上がらなかったのです。

つまり金が反応するのは「実際のインフレ率」ではなく、「インフレに対して中央銀行が後手に回っているか(実質金利がマイナスか)」です。これが第 1 章の実質金利と同じ話であることに気づくと、金の見方が一本にまとまります。

長期では購買力を保ってきた

ただし、10 年・20 年という長い時間軸で見れば、金は主要通貨の購買力低下に対して価値を保ってきました。1 オンスの金で買える物の量は、1 世紀前と大きくは変わっていません。この意味で「金は長期のインフレヘッジ」という説明は正しく、「短期のインフレ指標で金を売買する」ことが誤りなのです。

CPI・PCE・ブレークイーブン: 3 つの「インフレ」

インフレに関する指標は大きく 3 種類あり、金への効き方が違います。

  • CPI(消費者物価指数)— 毎月中旬に発表される実績値。市場が最も注目し、発表直後の数分で金が大きく動く。変動の大きい食品・エネルギーを除くコア CPI が重視される。
  • PCE デフレーター — FRB が政策目標(2%)の基準にする実績値。CPI より遅れて月末に発表され、サプライズは小さいことが多いが、FRB の判断に直結する。
  • ブレークイーブン・インフレ率(BEI)— 市場が織り込む将来のインフレ率。日次で動き、第 1 章の実質金利の構成要素。実績値より先に動くため、中長期の見立てにはこちらが重要。

インフレ局面の金を読む 3 つの質問

インフレのニュースを金に翻訳するときは、次の 3 つを順に問うと整理できます。

  • 中央銀行はインフレに対して先手か後手か? — 後手(実質金利マイナス)なら金に追い風。
  • 市場の期待インフレ率は上がっているか? — 上がって名目金利が追いつかなければ実質金利低下で追い風。
  • インフレの原因は需要か供給か? — 供給ショック(原油高など)は景気減速と同時に起こり、中央銀行が利上げしにくいため金に追い風になりやすい。

ライブデータ

金価格と 10 年期待インフレ率(1 年)
金 USD/oz 4,207 BEI % 2.36
3,500 4,000 4,500 5,000 5,500 2.1 2.2 2.3 2.4 2.5 26/01 26/03 26/04 26/06 26/08 26/10

期待インフレが上がっても名目金利がそれ以上に上がれば金は下がる。実質金利の章とあわせて読む。

出所: FRED T10YIE / TwelveData

1 日 1 回更新。価格は TwelveData の日次終値(JST)、各要因の値は出所の公表ラグを含みます。

見るべきデータ

米 CPI(総合・コア) FRED: CPIAUCSL / CPILFESL
米コア PCE デフレーター FRED: PCEPILFE
10 年ブレークイーブン・インフレ率 FRED: T10YIE
米 10 年実質金利 FRED: DFII10

よくある質問

Q. インフレが高いと金は上がりますか?
インフレ率の高さそのものではなく、インフレに対して金利が追いついているかで決まります。金利がインフレより低い(実質金利がマイナス)局面では上がりやすく、金利がインフレを上回れば高インフレでも下がります。2021〜22 年はその実例です。
Q. CPI と PCE はどちらを見るべきですか?
短期の値動きには CPI(市場の注目度が高く発表時の変動が大きい)、FRB の判断を読むには PCE(FRB の 2% 目標の基準)です。中長期の見立てには実績値より市場の期待インフレ率(BEI)が重要です。
Q. 金は長期的にインフレヘッジになりますか?
10 年・20 年の時間軸では主要通貨の購買力低下に対して価値を保ってきました。一方、数か月単位の売買にインフレ指標を直接使うのは誤りで、実質金利で見る必要があります。