LEARN

日米金利差とドル円 — なぜドル円は「米金利のチャート」と呼ばれるのか

ドルを持てば米国の金利が、円を持てば日本の金利が付きます。この差が大きいほどドルで持つ方が得になり、円を売ってドルを買う力が働きます。日米金利差は、日次から数か月の時間軸でドル円を最もよく説明する単一の変数です。この章では、その仕組みと、金利差が効かなくなる例外を扱います。

公開 · 執筆 boobook.ai 編集部

金利差でドル円が動く仕組み

通貨を持つということは、その国の短期金利で運用することと同じです。米国の金利が 5%、日本の金利が 0% なら、円を売ってドルに換えて持つだけで年 5% の利回り差が得られます。この差を求めて円売り・ドル買いが集まれば、ドル円は上昇(円安)します。

理論上は、為替の先物価格が金利差の分だけ調整されるため(金利平価)、将来の受け渡しまで含めれば利回り差は消えるはずです。しかし現実の市場では、スポットで円を売ってドルを買う投資家・企業・投機筋が金利差に反応して動くため、金利差の拡大はスポットのドル円上昇として表れます。

日本の金利は 1990 年代後半からほぼゼロに張り付いてきました。そのため長い間、「日米金利差の変化」は事実上「米金利の変化」と同じ意味を持ち、ドル円のチャートは米国債利回りのチャートとほとんど同じ形になりました。「ドル円は米金利のチャート」という市場の言い回しはここから来ています。

2 年と 10 年、どちらの金利差を見るか

金利差には期間があります。2 年物の金利差は向こう 2 年の政策金利の経路(利上げ・利下げの織り込み)を、10 年物の金利差は長期の成長・インフレ見通しを反映します。

ドル円との相関は時期によって入れ替わります。中央銀行の政策転換が主役の局面では 2 年物の金利差が、長期金利の水準そのものが動く局面(2022 年の米長期金利急騰など)では 10 年物の金利差がよく効きます。実務的には両方を並べ、どちらがドル円と同じ形をしているかを確認するのが確実です。

日本側の金利は 2024 年以降、日本銀行の正常化で動き始めました(第 3 章)。日本国債の利回りが上がる局面では、米金利だけを見ていると金利差の縮小を見落とします。金利差は「差」であって米金利そのものではない、という当たり前の点が、日本の金利が動く時代には改めて重要になります。

歴史的な実例: 2022 年の急騰

2022 年、FRB は年初のゼロ金利から年末には 4% 台まで、40 年ぶりの速さで利上げしました。米 10 年債利回りは 1.5% 前後から 4% 超へ上昇する一方、日本銀行はマイナス金利と長期金利の上限(イールドカーブ・コントロール)を維持し、日本の 10 年債利回りは 0.25% に抑え込まれていました。

日米の 10 年金利差は 1% 台から 4% 近くまで開き、ドル円は 115 円前後から 10 月には 151 円台まで上昇しました。この年のドル円と米 10 年債利回りの週足を重ねると、ほぼ同じ形をしています。「ドル円は金利差で動く」という命題の最も純粋な実例です。

金利差が縮小してもドル円が下がらなかった 2024 年前半

2024 年前半、米国の利下げ観測が高まり、日本銀行は 3 月にマイナス金利を解除しました。日米金利差は縮小方向に転じたにもかかわらず、ドル円は 4 月末に 160 円台へ乗せ、7 月には 161 円台まで上昇しました。金利差だけで見れば説明のつかない動きです。

原因は、金利差に反応しない円売りの存在です。貿易赤字やデジタルサービスの海外支払い、新しい NISA を通じた海外株投資といった構造的なフロー(第 5 章)と、金利差を収益源とする円キャリートレードの積み上がり(第 7 章・第 8 章)が、金利差の縮小を吸収して余りました。

重要なのは、金利差の効果が消えたわけではないという点です。この時期も米指標が強ければドル円は上がり、弱ければ下がるという日々の反応は続いていました。水準(ドル円が高いか安いか)の説明力は落ちましたが、変化(上がるか下がるか)の説明力は残っています。そして 8 月に金利差縮小の観測が一気に強まると、積み上がっていた円売りが巻き戻され、ドル円は 1 か月で約 20 円下落しました。金利差は、他の層が積み上げたものを崩す引き金にもなります。

見るべきデータと読み方

米国債利回りは米セントルイス連銀の FRED で、日本国債利回りは財務省の「国債金利情報」で、いずれも日次で無料公開されています。最新値は前営業日のものです。

読み方のポイントは 3 つあります。第一に、水準より変化の方向を見ること。金利差が 4% でも縮小トレンドにあればドル円には逆風です。第二に、金利差の変化を「米金利の変化」と「日本の金利の変化」に分解すること。同じ縮小でも、米利下げ観測によるものと日銀の利上げ観測によるものでは、株式や他通貨への含意が変わります。第三に、金利差が動いているのにドル円が反応しない局面を見つけること。それはフロー・介入・リスクの層が支配的になっているサインです。

ライブデータ

ドル円と日米 10 年金利差(月次・3 年)
ドル円(週足) 157.17 10 年金利差 % 1.74
140 150 160 170 1 2 3 4 23/10 24/05 24/12 25/07 26/02 26/09

金利差 = 米 10 年債の月平均 − 日本 10 年国債(OECD 月次)。2 本が同じ形なら「金利差で動いている」局面、金利差が縮小しているのにドル円が下がらない期間はフロー・ポジションの層が支配的。日本側は月次のため数週間のラグがある。

出所: FRED DGS10 / IRLTLT01JPM156N / TwelveData

ドル円と米 10 年債利回り(1 年)
ドル円 157.21 米 10 年債 % 5.29
150 155 160 165 3.5 4.0 4.5 5.0 5.5 26/01 26/03 26/04 26/06 26/08 26/10

日本の金利が動きにくい期間ほど、米 10 年債単独でドル円の形をなぞる。

出所: FRED DGS10 / TwelveData

1 日 1 回更新。価格は TwelveData の日次終値(JST)、各要因の値は出所の公表ラグを含みます。

見るべきデータ

米 10 年債利回り(名目) FRED: DGS10
米 2 年債利回り(名目) FRED: DGS2
日本 10 年国債利回り(日次) 財務省: 国債金利情報
日本 10 年国債利回り(月次) FRED: IRLTLT01JPM156N
米 10 年実質金利(TIPS) FRED: DFII10

よくある質問

Q. 日米金利差とは何ですか?
米国債の利回りから同じ期間の日本国債の利回りを引いた差です。2 年物は政策金利の織り込みを、10 年物は長期の成長・インフレ見通しを反映し、いずれもドル円と強い正の相関を持ちます。
Q. なぜ金利差が開くとドル円は上がるのですか?
円を売ってドルで持つだけで金利差の分だけ利回りが得られるため、円売り・ドル買いが集まるからです。2022 年には米国の急速な利上げで 10 年金利差が 4% 近くまで開き、ドル円は 115 円前後から 151 円台まで上昇しました。
Q. 金利差が縮小してもドル円が下がらないのはなぜですか?
貿易赤字や海外投資といった金利差に反応しない構造的な円売りと、円キャリートレードの積み上がりが金利差の縮小を吸収するためです。2024 年前半がその実例で、金利差の効果は「水準」より「変化」に残ります。

関連記事