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Gold Demand Trends の見方 — 需要 4 分類・供給・OTC の読み方
Gold Demand Trends を開くと、需要と供給をトン数で並べた数表が出てきます。読み方の核心は「4 つの需要カテゴリーを前年同期と比べ、どの買い手が増減したかを特定する」ことです。この章では、各カテゴリーの定義と癖、供給側の見方、見落としやすい OTC 項目、そして改定への向き合い方までを順に扱います。
公開 · 執筆 boobook.ai 編集部
全体の構造 — 需要 4 分類 + 供給
レポートの中心は、四半期の需要と供給をトン数(と米ドル金額)で示す一覧表です。需要は次の 4 分類で、ゴールド価格要因シリーズの章立てとも対応しています。
- 宝飾(Jewellery)— 指輪やネックレスなどの宝飾品需要。年間需要の最大カテゴリーで、中国とインドが世界の半分近くを占める。価格が上がると減る「価格に逆らう」性質を持つ。
- テクノロジー(Technology)— 電子部品(ボンディングワイヤ・めっき)や歯科など産業用途。全体の 1 割弱で変動も小さく、相場分析での重要度は低い。
- 投資(Investment)— 地金・コイン(Bar and Coin)と、金 ETF の残高増減の合計。個人の現物投資と機関投資家のファンド経由の投資をまとめたカテゴリー。
- 中央銀行(Central Banks & Other Institutions)— 各国中央銀行・政府系機関の純購入量。2022 年以降、年 1,000 トン超で推移する構造要因。
各カテゴリーの定義と癖
同じ「需要」でも、カテゴリーごとに数字の作られ方が違います。定義の癖を知らないと、符号や規模を読み違えます。
- 宝飾には「消費(Consumption)」と「製造(Fabrication)」の 2 系列がある — 消費は店頭で売れた量、製造はメーカーが作った量で、在庫の積み増し・取り崩しの分だけずれる。見出しに使われるのは通常「消費」。
- 地金・コイン(Bar and Coin)は「純額」— 個人の購入から売り戻しを引いた値。高値で利益確定売りが膨らむと、購入が活発でも数字は小さく出る。
- ETF は「残高の増減」— 四半期中に保有トン数が減ればマイナス(流出)になる。需要 4 分類の中で唯一、恒常的にマイナスになり得る項目。
- 中央銀行は「報告 + 推計」— IMF などへ公表された購入に、報告されていない購入の推計を上乗せした値。このため IMF 統計の合計より大きくなるのが通常で、「WGC と IMF で数字が違う」最大の理由。
供給側 — 鉱山生産とリサイクル
供給は、鉱山生産(Mine Production)、生産者ヘッジの増減(Net Producer Hedging)、リサイクル(Recycled Gold)の 3 項目です。鉱山生産は年間 3,000 トン台で緩やかにしか動かないため、四半期の分析で注目すべきはリサイクルです。
リサイクルは手持ちの宝飾品や地金の売り戻しで、価格が上がると増えます。つまり供給側で唯一「価格に反応する」項目で、宝飾需要の減少とリサイクルの増加が同時に起きていれば、現物市場が高値に「悲鳴を上げている」状態だと読めます。この価格弾力性が金価格の天井と床の議論につながることは、第 3 章で扱います。
OTC という「その他」項目に注意
近年のレポートでは、4 分類の合計とは別に「OTC その他(OTC and Other)」という項目が付きます。これはロンドンの店頭市場などでの機関投資家・富裕層の相対取引と、統計上の誤差をまとめた調整項目で、直接観測ではなく残差として推計されます。
2023 年以降はこの OTC 項目が大きな買い越しを示す四半期が続き、「表の 4 分類だけでは説明できない買い手」の存在を示唆してきました。重要なのは、見出しの「総需要」に OTC を含む系列と含まない系列があることです。四半期どうしを比べるときは、どちらの系列かを必ず確認し、同じ系列で比べてください。COT レポートにおける Futures Only と Combined の関係と同じ注意です。
前年同期比で読む — 季節性があるから
宝飾需要には明確な季節性があります。インドの婚礼シーズンとディワリ、中国の春節前の買い付けで秋〜冬の四半期が膨らみ、夏の四半期は細ります。このため前の四半期との比較(前期比)は季節要因に埋もれてしまい、レポート自身も前年同期比(YoY)を基本にしています。
実務では、前年同期比に加えて「過去 5 年の同じ四半期の平均」との比較が有効です。前年がたまたま極端だった場合の歪みを避けられます。また 1 月末〜2 月初に出る通年版は、年単位の構造変化(中央銀行のシェア上昇など)を確認する年に 1 度の機会です。
改定がある — 確定値ではない
需要データは調査ベースの推計なので、翌四半期以降のレポートで過去の値が改定されます。特に地金・コインや OTC は改定幅が大きくなりがちです。
したがって、数トン〜数十トン程度の増減を根拠に強い結論を出すのは適切ではありません。「前年同期比で 2 桁 % 動いたか」「複数四半期にわたって同じ方向か」という粗い粒度で構造を読むのが、このデータの正しい解像度です。
仮の数値で 1 四半期分を読んでみる
定義の説明だけでは実感が湧きにくいので、架空の 1 四半期分を読んでみます。以下はすべて説明のための仮の数値で、実際のデータではありません。「この四半期に金価格が大きく上昇した」という設定です。
- 宝飾消費 450 トン(前年同期比 −12%)— 高値で店頭需要が減った。価格に逆らう性質どおり。
- 地金・コイン 320 トン(+18%)— 価格上昇を追いかける個人の現物買いが強い。地域内訳で中国が急増、欧米が減少なら「買い手は東」と分かる。
- ETF −40 トン(前年同期は +10 トン)— 欧米ファンドからは流出。価格上昇と ETF 流出の組み合わせは「欧米投資家以外が上昇を作った」ことを意味する。
- 中央銀行 300 トン(+10%)— 高値でも買い続けている。価格に敏感でない買い手が上昇の土台にいると確認できる。
- リサイクル 380 トン(+20%)— 高値で売り戻しが増加。宝飾減とあわせて「実需の側は高値を歓迎していない」ことを示す。
- 総合すると、この四半期の上昇は「中央銀行 + アジアの現物投資」が牽引し、「欧米 ETF と宝飾実需」は逆らった — という構造が 1 枚の表から読み取れる。
ライブデータ
公式に報告された残高のみ。2022 年 11 月以降の積み増しが階段状に見える。未報告分は含まれない。
出所: IMF IRFCL
| 国 | 残高 t | 前月 | 12 か月 | 報告月 |
|---|---|---|---|---|
| ポーランド | 648.0 | +7.8 | +132.7 | 2026-08 |
| 中国 | 2,386.6 | +20.2 | +84.3 | 2026-08 |
| カザフスタン | 369.8 | +1.4 | +61.1 | 2026-07 |
| チェコ | 85.8 | +1.7 | +20.5 | 2026-08 |
| インド | 880.5 | +0.0 | +0.5 | 2026-08 |
| ハンガリー | 110.0 | +0.0 | +0.0 | 2026-08 |
| 日本 | 846.0 | +0.0 | +0.0 | 2026-08 |
| 米国 | 8,133.5 | +0.0 | +0.0 | 2026-07 |
| イタリア | 2,451.8 | +0.0 | +0.0 | 2026-08 |
| フランス | 2,437.0 | +0.0 | +0.0 | 2026-08 |
| スイス | 1,039.9 | +0.0 | +0.0 | 2026-08 |
| シンガポール | 203.4 | -0.1 | -0.7 | 2026-08 |
| ドイツ | 3,349.1 | +0.0 | -1.2 | 2026-08 |
| トルコ | 791.4 | +18.9 | -5.7 | 2026-08 |
| ロシア | 2,270.6 | -6.2 | -55.9 | 2026-08 |
IMF に報告している主要保有国のみ。増減は報告ベースで、WGC が推計する未報告の購入は含まない。
出所: IMF IRFCL
1 日 1 回更新。価格は TwelveData の日次終値(JST)、各要因の値は出所の公表ラグを含みます。
見るべきデータ
| 需要 4 分類(宝飾・テクノロジー・投資・中央銀行) | WGC: Gold Demand Trends(四半期) |
| 供給(鉱山生産・生産者ヘッジ・リサイクル) | 同上 |
| OTC その他(調整項目) | 同上 |
| 国別内訳(中国・インドなど) | 同上 |
よくある質問
- Q. 需要が供給を上回ると金価格は上がりますか?
- そのようには読めません。売買は必ず両者が一致して成立するため、需給表は事後的には常に釣り合っており、差は OTC・在庫などの調整項目に吸収されます。表から読むべきは「どの買い手が増え、どの買い手が減ったか」という構造の変化で、価格を直接予測する道具ではありません。
- Q. ETF の需要がマイナスなのはどういう意味ですか?
- 四半期中に金 ETF の保有残高が減った(投資家の売りが買いを上回り、裏付けの現物が市場に放出された)ことを意味します。需要 4 分類の中で唯一、恒常的にマイナスになり得る項目です。ETF が流出しても価格が上がっていれば、他の買い手が吸収したと読みます。
- Q. WGC と IMF で中央銀行の購入量が違うのはなぜですか?
- IMF の統計は各国が自己申告した公式報告のみを集計しますが、WGC(Gold Demand Trends)は報告されていない購入の推計を上乗せしています。このため WGC の値の方が大きくなるのが通常です。報告ベースの確かさなら IMF、実態の近似なら WGC と使い分けます。