LEARN

WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)とは — 組織・公表統計・データの出所

WGC(World Gold Council = ワールド・ゴールド・カウンシル)は、世界の主要な金鉱山会社を会員とする業界団体です。1987 年に設立され、本部はロンドン。金の需要を広げることを使命とするマーケティング組織でありながら、その過程で整備した需給統計が「金市場の公式データ」に最も近い存在になっています。この章では、組織の成り立ちと、公表している統計の全体像を整理します。

公開 · 執筆 boobook.ai 編集部

WGC はどんな組織か

WGC の会員は Newmont、Barrick、Agnico Eagle など世界の大手金鉱山会社 30 社余りで、運営資金も会員の拠出によります。つまり WGC は「金を売る側」の団体であり、金の需要を開発・促進することが設立目的です。規制当局でも取引所でもありません。

活動は統計の公表にとどまりません。金投資の制度整備(後述の ETF 組成)、各国政府・中央銀行への働きかけ、責任ある金採掘の原則(Responsible Gold Mining Principles)の策定など、金市場のインフラ作り全般に及びます。「業界団体である」という性質は、データを読むうえで頭の片隅に置いておくべき点で、第 3 章(活用方法)で改めて扱います。

なぜ業界団体の統計が「事実上の標準」なのか

株式なら取引所、米国の先物なら CFTC と、市場データには公的な集計主体があります。しかし現物の金は、ロンドンの店頭市場・上海・ドバイ・各国の宝飾店頭と、世界中に分散した相対取引で売買され、全体を集計する政府機関が存在しません。

この空白を、WGC が調査会社と組んで埋めてきました。国別・用途別の需要、鉱山生産、リサイクルまでを一貫した定義で四半期ごとに推計する統計は他になく、報道機関・投資銀行・中央銀行のレポートが金需要に言及するときの出所はほぼ例外なく WGC です。「公的ではないが、代わりがない」— これが WGC 統計の立ち位置です。

公表している統計とスケジュール

WGC の公表物のうち、相場の分析に使う主なものは次の 4 つです。いずれも公式サイト(gold.org)とデータポータル Goldhub で公開されます。

  • Gold Demand Trends(四半期)— 旗艦レポート。需要 4 分類と供給の内訳を国別・トン・金額で推計する。公表は四半期末の約 1 か月後(1 月末〜2 月初に前年通年 + 第 4 四半期、4 月末に第 1 四半期、7 月末に第 2 四半期、10 月末に第 3 四半期)。本シリーズ第 2 章の主題。
  • 金 ETF フロー(月次)— 世界の金 ETF の保有残高と資金流出入を地域別に集計。毎月上旬に前月分が出る。個別 ETF(GLD 等)の日次データを世界全体へ広げた統計。
  • 中央銀行統計(月次)— IMF の国際金融統計などを基に各国の公的金準備を集計。元データの性質上、約 2 か月のラグがある。年 1 回、各国中央銀行へのアンケート調査(Central Bank Gold Reserves Survey)も公表され、「今後 1 年で金準備を増やすつもりか」という意図の調査として注目される。
  • Goldhub のデータ・ツール群 — 過去数十年の需給・価格・ボラティリティ等の時系列と、金価格の変動要因を分解する分析ツールなど。閲覧は無料登録制。

データはどこから来るのか — Metals Focus という調査会社

Gold Demand Trends の需給データを実際に作っているのは、WGC 自身ではなく貴金属専門の調査会社 Metals Focus です(2016 年から。それ以前は GFMS)。各国の精錬業者・宝飾メーカー・小売店・両替商への聞き取りと現地調査を積み上げて、宝飾需要や地金・コイン投資をトン数で推計します。

ここが COT レポートとの決定的な違いです。COT は報告義務に基づく「正確な枚数」ですが、WGC の需要データは調査に基づく「推計トン数」で、後の四半期に改定されます。正確さより網羅性を取ったデータであり、1 トン単位の増減を厳密に比べる使い方には向きません。

GLD を作ったのも WGC

現在の金市場を語るうえで欠かせない金 ETF という仕組みは、WGC の需要開発の成果です。2004 年に WGC の子会社がスポンサーとなって米国に上場した SPDR ゴールド・シェア(GLD)は、証券口座で金を売買できるようにして投資家の裾野を一変させました。

つまり WGC は「統計の集計者」であると同時に、金投資のインフラを作ってきた当事者でもあります。GLD の残高が欧米投資家の温度計として機能する仕組みは、ゴールド価格要因シリーズ第 6 章で詳しく解説しています。

入手方法とライセンス

レポート本文(Gold Demand Trends など)は gold.org で無料公開され、誰でも読めます。データ本体のダウンロードは Goldhub の無料登録が必要で、利用規約上、商用利用や再配布にはライセンス契約が求められます。報道やブログが WGC のヘッドライン数値だけを出典付きで引用し、データ全体を転載しないのはこのためです。

一次データとして自分で確認したい場合は、四半期ごとに Gold Demand Trends のレポート本文(英語)を読むのが基本動線です。主要な数表はレポート内に含まれており、本シリーズ第 2 章はその表を読むための章です。

ライブデータ

金価格と SPDR ゴールド・シェア(GLD)保有トン数(6 か月)
金 USD/oz 4,207 GLD 保有 t 1,057
3,750 4,000 4,250 4,500 4,750 5,000 980 1,000 1,020 1,040 1,060 1,080 26/04 26/05 26/06 26/07 26/08 26/10

GLD の残高は欧米投資家の温度計。残高が減っているのに価格が上がる局面は、欧米以外の買い手(中銀・アジア)が強いサイン。

出所: SPDR Gold Trust 公式 / TwelveData

1 日 1 回更新。価格は TwelveData の日次終値(JST)、各要因の値は出所の公表ラグを含みます。

見るべきデータ

Gold Demand Trends(四半期・需給の全体像) WGC: gold.org / Goldhub
世界の金 ETF フロー(月次) WGC: Gold ETF Flows
各国の公的金準備(月次・約 2 か月ラグ) WGC Central Bank Statistics(IMF IFS 基盤)
中央銀行アンケート(年次・購入意図) WGC: Central Bank Gold Reserves Survey

よくある質問

Q. WGC は公的機関ですか?
いいえ。世界の大手金鉱山会社を会員とする業界団体(民間組織)です。ただし現物の金需要を一貫した定義で世界規模に集計する統計は他になく、報道・金融機関・中央銀行のレポートで事実上の標準データとして使われています。
Q. Gold Demand Trends はいつ公表されますか?
四半期末の約 1 か月後です。1 月末〜2 月初に前年通年と第 4 四半期、4 月末に第 1 四半期、7 月末に第 2 四半期、10 月末に第 3 四半期が出ます。速報性はないため、月次の ETF フロー・中央銀行統計と組み合わせて使います。
Q. LBMA と WGC はどう違いますか?
LBMA(ロンドン貴金属市場協会)はロンドンの金・銀の店頭卸売市場の業界団体で、地金の品質基準(Good Delivery)や市場の取引統計を管轄します。WGC は鉱山会社側の団体で、世界の需要・供給の統計と需要開発を担います。「市場インフラの LBMA、需給統計の WGC」と覚えると区別しやすいです。

関連記事