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原油先物の限月・満期・ロールとは何か — 期近と期先、ロールコスト、2020 年のマイナス価格

金や為替には無く、原油にはある概念が「限月(げんげつ)」です。原油先物は「何月に受け渡す原油か」ごとに別々の契約として取引され、それぞれに満期があります。満期を過ぎれば契約は消えるので、持ち続けるには次の限月へ乗り換える(ロールする)必要があり、その乗り換えのたびに限月間の価格差が損益に影響します。2020 年 4 月のマイナス価格も、この満期の仕組みが生んだ出来事です。本章では、限月と満期のルール、ロールの仕組みとコスト、そして CFD・ETF でロールがどう扱われるかを解説します。

公開 · 執筆 boobook.ai 編集部

限月と満期 — 「今月の原油」と「半年後の原油」は別の商品

WTI 先物には毎月の限月が数年先まで上場されており、それぞれが独立した価格を持ちます。満期に最も近い限月を「期近(きぢか)」、それより先を「期先(きさき)」と呼びます。ニュースで「WTI 先物」と言うときは通常、期近限月の価格を指します。期近から期先までの価格を並べた線が先物カーブで、その形が意味するもの(コンタンゴ / バックワーデーション)は姉妹シリーズの第 7 章で解説しています。

満期のルールは取引所ごとに違います。WTI 先物(CME)は現物受渡し型で、取引最終日は「受渡月の前月 25 日の 3 営業日前」(25 日が営業日でない場合はその直前の営業日を基準)です。たとえば 6 月限は 5 月 20 日前後に取引を終え、その後 6 月中にクッシングで受け渡されます。ブレント先物(ICE)は現金決済型で、受渡月の 2 か月前の月末営業日に取引を終えます。たとえば 6 月限は 4 月末に満期を迎えます。正確な日付は取引所の公式カレンダーで確認してください。

満期が近づくと、実際に受け渡す意思のない参加者(投機筋・ETF・CFD 業者)は期近を手放して次の限月へ移ります。そのため満期の 1〜2 週間前には取引の中心(出来高)が次の限月に移り、期近の流動性は急速に薄くなります。

ロールとロールコスト — 持ち続けるための見えない費用

期近を売って次の限月を買う乗り換えを「ロール」と呼びます。このとき、売る限月と買う限月の価格が違うため、乗り換えによって損益が発生します。先物カーブがコンタンゴ(期先高)なら「安く売って高く買う」ことになり、原油価格が横ばいでも保有し続けるだけで損失が積み上がります(ロールコスト)。バックワーデーション(期近高)なら「高く売って安く買う」ため、逆に利益が生まれます(ロールイールド)。

この効果は思ったより大きく、コンタンゴが深い時期には年率で 10〜20% に達することもあります。原油 ETF が長期では原油価格に追随できない主因はこれです。逆にバックワーデーションが続く時期は、先物を買い持ちする側にロールによる追い風が吹きます。「原油を買って持つ」という単純な行為が、カーブの形によって有利にも不利にもなる — これが金や株式との決定的な違いです。

歴史的な実例: 2020 年 4 月 20 日、WTI がマイナスになった日

2020 年 4 月 20 日、WTI 先物の 5 月限は取引最終日の前日に 1 バレル −37.63 ドルで取引を終えました。新型コロナで需要が急減し、受渡地クッシングの貯蔵タンクが数週間で満杯になると見込まれる中、5 月限を持っていれば数日後に「置き場のない原油」を受け取らなければならない状況でした。受け取れない参加者は価格がいくらでも売るしかなく、買い手は「お金をもらっても引き取れない」ため、価格はゼロを突き抜けました。

重要なのは、この日マイナスになったのは満期直前の 5 月限だけだったことです。6 月限は同じ日に20 ドル前後で取引されており、ブレントも 25 ドル前後でした。ETF や CFD の多くはすでに6 月限以降へロール済みだったため、口座の価格がマイナスになった個人はほとんどいませんでした。一方で、この出来事のあと主要な原油 ETF は「期近だけを持たず複数の限月に分散する」方式に変更し、CME は先物とオプションのシステムをマイナス価格に対応させました。

この事件が教えるのは、「満期直前の期近は、需給の極端な局面で価格の常識が通用しなくなる」ということです。原油を取引するなら、自分の商品がどの限月に連動し、いつロールするのかを常に把握しておく必要があります。

CFD と ETF でロールはどう扱われるか

先物型 CFD では、会社が定めるロール日に建玉が自動で次の限月へ移され、限月間の価格差は「ロール調整額」として口座に加減されるのが一般的です。損益は変わらないよう設計されますが、ロール日をまたぐと表示価格が数十セント〜数ドル飛ぶため、指値や損切りの水準を見直す必要があります。スポット型 CFD では、この価格差が日々の金利調整に分散して織り込まれるため、価格の飛びは無い代わりに、コンタンゴの局面では買い持ちに毎日コストがかかります。

ETF は、目論見書に定めたスケジュール(たとえば毎月特定の期間に少しずつ)でロールを行います。個人がロールを操作することはできず、ロールコストは基準価額に反映されます。「原油価格は年初から 10% 上がったのに ETF はほとんど上がっていない」という現象が起きたら、その差の大半はロールコストです。

  • 先物(自分で保有)— 満期前に自分でロールする。忘れると受渡しやマイナス価格のリスクに直面する。
  • 先物型 CFD — 自動ロール + 調整額。ロール日に価格が飛ぶので注文水準を確認。
  • スポット型 CFD — 価格の飛びは無いが、カーブの傾きが日々の金利調整に反映される。
  • ETF/ETN — 目論見書のスケジュールで自動ロール。ロールコストは基準価額に溶ける。

ライブデータ

WTI 現物スポット(1 年)
WTI USD/bbl 96.16
40 60 80 100 120 25/10 25/12 26/02 26/05 26/07 26/09

先物カーブ(限月別価格)は収集していないため価格のみ。カーブの形は CME / ICE の公式サイトで確認できる。

出所: FRED DCOILWTICO

1 日 1 回更新。価格は TwelveData の日次終値(JST)、各要因の値は出所の公表ラグを含みます。

見るべきデータ

WTI・ブレント先物の限月別価格と取引最終日 CME グループ・ICE の公式カレンダー
期近スプレッド(第 1 限月 − 第 2 限月) 先物価格から算出
各社 CFD のロール日・調整額の規定 各証券会社・FX 会社の取引説明書
原油 ETF のロールスケジュール 各 ETF の目論見書

よくある質問

Q. 原油先物の限月とは何ですか?
「何月に受け渡す(または決済する)原油か」を表す契約の区分です。原油先物は毎月の限月が数年先まで上場され、それぞれが独立した価格を持ちます。満期に最も近い限月を期近、それより先を期先と呼び、ニュースの「WTI 先物価格」は通常、期近限月を指します。
Q. ロールコストとは何ですか?
満期前に期近を売って次の限月を買う「ロール」で発生する損益のうち、先物カーブがコンタンゴ(期先高)のときに生じる損失を指します。安い期近を売って高い期先を買うため、原油価格が横ばいでも保有し続けるだけで損失が積み上がります。逆にバックワーデーションでは利益(ロールイールド)が生まれます。原油 ETF が長期で原油価格に追随できない主因です。
Q. WTI 先物の満期はいつですか?
CME の WTI 先物は、受渡月の前月 25 日の 3 営業日前が取引最終日です(25 日が営業日でない場合は直前の営業日を基準に数えます)。たとえば 6 月限は 5 月 20 日前後に取引を終えます。ICE のブレント先物は受渡月の 2 か月前の月末営業日です。日付は年によって変わるため、取引所の公式カレンダーで確認してください。

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